COLUMN

2019年10月7日 コラム

清掃ではキリがない……海洋プラスチックごみ問題の主戦場、荒川の課題

 

2019年9月20日、東京都江戸川区の荒川河川敷で、World Cleanup Day(ワールド クリーンアップデー、以下WCD)のため環境保護イベントが行われた。WCDは毎年世界中で「地球をキレイにする日」として開催されるクリーンアップイベント。例年9月中旬に日付が定められ、国境を越えていくつもの組織がイベントを開催する。最大の特徴は草の根的な活動内容。WCDは政府、企業が主導したものではなく、あくまでボランティアとして多様な組織が身近な街の清掃など目の前のごみ問題へ取り組む。

 

世界で広がるクリーンアップイベントを日本でも

WCD最大の組織は2008年に設立されたエストニアのLet’s Do It! World(レッツ ドゥ イット! ワールド)で、初回から5万人が参加し、24時間で1万トンの不法投棄されたごみを片付けた。現在では115か国、1400万人が一斉にクリーンアップイベントへ参加する世界的ムーブメントとなっている。今年は9月21日(土)が「ワールド クリーンアップ デー」に指定され、この前後に世界中でイベントが開催予定となっている。

日本では1日前の9月20日(金)に、ソーダストリーム株式会社が荒川クリーンエイドの支援により、荒川河川敷でのクリーンアップイベントを開催。当日は一般参加者を含む約30名が、河川敷に散乱するプラスチックごみを清掃した。

 

河川敷のプラスチックごみは海へ流れいずれ我々の食卓に届く

海風が吹き込む、荒川の河川敷。コンクリートの護岸には赤、黄、緑のプラスチックごみが散乱していた。プラスチックを避けて歩けないほど量は多い。多くは原型を保っておらず、破片状だ。

荒川の流域は1000万を超える人口密集地帯で、人口密度も鶴見川に次ぎ国内2位。河川に蓄積するごみの量は流域の人口に比例するため、荒川は国内における「河川ごみの主戦場」といっても過言ではない。荒川クリーンエイドによると、荒川にはもともとハゼの一種であるトビハゼが暮らしていたが、あまりにも大量のプラスチックごみがあるせいで生息できず減少の一途をたどっているという。また、荒川から流れたプラスチックごみはいずれ海へと流れつく。そこで海の生物がプラスチックを餌だと思い込んで食べてしまうケースが後をたたない。ナショナルジオグラフィックによると、海鳥の9割がプラスチックを誤飲しているとの報告がある。

特に、荒川では粉砕されて小さくなった「マイクロプラスチック」が課題となっている。マイクロプラスチックとは、紫外線な波などの影響で劣化し、5mm以下のサイズになったプラスチックのこと。手で拾い上げるには小さすぎるため除去しにくく、多くは土壌へ蓄積するか、川から海へと流れていってしまう。

マイクロプラスチックが海に流れ着くとプランクトンや小魚がそれを誤飲する。そして大きい魚が小魚を食べる食物連鎖の過程で、最後には我々の食卓にもプラスチック混じりの魚が届く。すでにウィーン医科大学の胃腸病学者、フィリップ・シュワブル氏から人体にマイクロプラスチックが入り込んでいると報告されている。河川敷に散らばるプラスチックごみは、いずれ我々の体が食べるプラスチックごみの「少し前の姿」に過ぎないのだ。

 

荒川の河川敷になぜプラスチックごみ?

クリーンアップイベントでは、トングで拾える5mm以上のごみだけを回収できるに過ぎない。それでもさらに粉砕される前段階で清掃することで、汚染を防ぐことは可能だ。

実際、筆者もこのイベントへ参加してきたが、チームで集めたごみ全体の約7割が、粉々になったプラスチックの破片だった。プラスチックは土に還るまで最大数百年を要するが、それまでに粉砕され、目に見えなくなってしまう。クリーンアップイベントは、その手前段階でプラスチックのマイクロ化を食い止める戦いだった。

しかし、2時間で清掃できたのはわずか50mの範囲。荒川は全長170kmあるため、このペースでは年に3,400回の清掃を行ってやっと追いつく数字だ。いっそブルドーザーで土壌ごとさらって、入れ替えてしまった方がいいのでは? と思わされたくらいである。参加前はただペットボトルを拾って集める単純な清掃活動だと考えていたが、実際には粉砕されたプラスチックの破片を集める、途方もない作業であることを思い知らされた。

ではこれらのプラスチックごみは、どこから来るのか。実は我々が普段暮らしている街中からやってくるものがほとんどだ。街中でポイ捨てされたプラスチックごみは、排水路を通って川へ流れ込む。ペットボトル、スーパーやコンビニのビニール袋、冷たいドリンクを入れるプラカップなどがこうして河川を流れ、うねりのある場所で滞留する。滞留すれば土壌に蓄積し、今回WCDのクリーンアップイベントで回収されたようなプラスチックごみとなる。

日本はペットボトルが9割以上回収されているが、これは行政や国の取り組みによるものだ。いくら行政が努力をしても、街中のポイ捨てを捨てられなければ、街から川へ、川から海へと流れていくプラスチックごみは減らせない。そして先述のとおり、細かく砕けたマイクロプラスチックは、魚を通して私たちの食べ物にも混ざっている。ポイ捨ては単なるマナー違反ではなく、深刻な環境・健康問題なのだ。

 

ゴミを生まない商品選び「プリサイクル」が解決への糸口

もちろん、荒川クリーンエイドが継続しているような清掃イベントも、海洋汚染の防止には大きく貢献している。だが荒川クリーンエイドの代表も認めるように、いくら清掃しても次から次へとプラスチックごみが流れ着く現状ではきりがないのも事実だ。2015年に出された環境省の報告では、日本の太平洋沿岸に漂着しているペットボトルの過半数が日本製と判明している。

クリーンアップイベント主催者のソーダストリーム株式会社は、「ゴミにならないものを選ぶ=『プリサイクル』を心がけることが大切です。『ごみを掃除すれば良いのではない。ごみを出さない生活をすることが大切なのだ』というのが、ソーダストリームの理念です。そのことを体現するイベントとして、今回もあえてワールドクリーンアップデー当日ではなく、前日にイベントを実施しました」とイベント当日にコメントを残している。

当日配布されたソーダストリームのマイボトルは、製造から4年間使い続けられるという。たとえばこのマイボトルのように、長く使える素材を選ぶことでゴミを生まない努力をすることが、この果てしない荒川のごみ問題を解決する糸口になる。

海洋汚染、そして人体へのマイクロプラスチック混入を防ぐには「そもそもプラスチックごみを生まない」抜本的な解決策が必要だ。ペットボトルをマイボトルへ、ビニール袋をエコバッグへ……個々の取り組みが、最後は地球を救う。クリーンアップイベントは、普段はぼんやりとしか想像できないごみ問題を身近にとらえる、確かなアクションだった。

Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について

「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。

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