COLUMN

2020年2月5日 コラム

免罪符としての生分解性プラスチック それで地球が救えるか

プラスチックごみが問題視され始めたころ、燦然と登場したのが「生分解性プラスチック」だった。生分解性プラスチックとは、プラスチックの中でも微生物が炭酸ガス、メタン、水などに分解でき、土に還るものを指す。プラスチックごみ問題に直面しながらも、対策を打ち出せなかった企業にも希望が湧いた。

だが、その生分解性プラスチックに隠された”落とし穴”は、一般にあまり知られていない。

 

生分解性プラスチックの急速な普及

現在、生分解性プラスチックは幅広く採用されている。たとえば、THE BODY SHOP(ザ・ボディショップ)では生分解性のシートマスクを販売。使い捨てプラスチックの削減に世界規模で挑んでいる。日清食品ホールディングスは、容器の素材を生分解性プラスチックへ置き換える方針を打ち出した。

これら2社はいずれも使い捨て容器を多く利用するため、環境負荷も大きく下がるはずだ。だが、そこには生分解性プラスチックへの過度な期待もある。「土に還るプラスチック」と聞けば、普通の人なら「使い捨てても環境問題を考えずに捨てられる」と考えるだろう。

ところが、生分解性プラスチックが土に還るためには、一定の条件が必要だ。そして、「生分解性プラスチックの分解に必要な条件」はわざわざ土の中へ埋めても4~5年を要する、厳しいものである。

生分解性プラスチックの試験では、温度20~60℃の密閉された土の中で、湿度や通気性、水分量がコントロールされた状態で行われる。そこには雨がほとんど降らない乾燥地や、海中は想定されていない。その結果、生分解性プラスチックの多くは「土には数年かければ還るが、海には還らない」のだ考えてみれば、短期間に水中で分解されてしまうプラスチックがあったら、耐水性に問題が出るだろう。プラスチックの強みは耐久性や耐水性だから、簡単に分解できても困るのだ。

 

生分解性プラスチックでは救えない海洋生物の命 

日本ではカネカが海にも還る生分解性プラスチックの生産を始めたが、年間生産量は5,000トン。対して、プラスチックごみとして毎年海洋に流出している量は年間800万トンと、生産と現状のミスマッチは残る。

また、たとえ海に還るプラスチックでも短期間では分解されないために、脅かされる命もある。毎年、クジラやアザラシがプラスチックを誤食することで栄養が取れなくなり、餓死してしまうケースが報告される。死骸の胃からは生分解性プラスチックも見つかっており、分解速度が栄養失調に間に合わなかったことがわかっている。

人の利便性を守るなら「徐々に分解される」プラスチックでなければ耐久性に支障がでる。だが、何年もかけて分解するプラスチックは、その前に動物を死に追いやるのだ。現存する生分解性プラスチックで、「すぐ分解され、かつ普段使いで分解されないほどの耐久性があるプラスチック」というアンビバレントな要求を征する素材はない。

 

プラスチックの代替品を探し続けよう

生分解性プラスチックがあるから、プラスチックを使い続けても許される――。そんな「免罪符」としての性質を生分解性プラスチックが持ってしまえば、今後も土に還りそこねた生分解性プラスチックが土壌や海洋に蓄積し、動物を死なせてしまう。

2019年現在において「使い捨てプラスチックごみ」を生むことは、サステナブルといえない。生分解性プラスチックに甘えることなく、身近なものから脱・プラスチックに取り組んでいく道は模索されるべきだろう。

海洋生物が絶滅した海で、プラスチックが分解されても手遅れだ。ペットボトル飲料を買ったり、ビニール袋をもらう前に一瞬「これ以外の選択肢はあるかな?」と考えることが、一歩ずつ未来を変えていく。

Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について

「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。

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