COLUMN
コラム
今さら聞けない「SDGs(持続可能な開発⽬標)」の取り組み
「最近、環境問題をニュースでよく見るな」と、感じたことはあるだろうか。
たとえば、今年大阪で開催されたG20では「海洋プラスチックごみ問題」が主要テーマのひとつとなった。
日本政府はレジ袋の有料化を打ち出し、コンビニにはハリウッド俳優、ウィル・スミスの息子であるジェイデン・スミスが創設した紙パック製のミネラルウォーターブランド『JUST WATER』が並ぶ。
これまでも環境問題はニュースとして扱われてきたが、身近な消費行動にまで影響を与えるムーブメントに育っているのが近年の特徴だ。
環境保護プロジェクトの背景にある SDGs
実は、これら身近な変化の背景にあるのが国連の開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」である。国連は2000年から、主要な国際会議やサミット等で採択された国際開発目標を統合し、ひとつの枠組みとしてまとめ世界規模で連携してきた。
SDGsが設定されるまでの背景には、世界の貧困問題があった。1990年の時点で、1日1ドル未満の「極度の貧困」で暮らす人口は世界の36%にのぼった。年に1,270万人の乳幼児が死亡し、350万人がHIV/エイズに感染していた。
国連はこれらの課題に対しMDGs(ミレニアム開発目標)というプロジェクトを立ち上げ、世界の貧困削減や、初等教育の普遍化などへ国や企業を超えて支援してきた。そして2015年までにMDGsは成功をおさめ、世界の5歳児未満死亡率を53%、HIV/エイズの感染件数を40%近く減少させた。
しかし、MDGsの成功は、次なる課題も明確にした。例を挙げると、人が生きていくには清潔な水が欠かせない。
しかしそのためには、土壌や海洋が汚染されていないことが前提にある。また、単純に最貧国を支援していくだけでは、支援する側にメリットが見つからず、プロジェクトが打ち切られやすい。
そうした背景から、MDGsをさらに発展させた新プロジェクトとして、2030年を目標とした新しい理念であるSDGsが国連で提唱された。SDGsではMDGsでカバーされていた貧困の削減や、教育の充実などを踏襲しつつも分野を8から17項目に増やし、特に地球環境分野を大幅に充実させた。また、地球環境を保護しつつ経済成長を果たすことも目標としている。
こうして、MDGsが採択された2000年から、環境保護を目的とした政府、民間企業、NGO/NPOの活動が増えた。その結果、冒頭の海洋プラスチックごみ対策やレジ袋の有料化にまつわるニュースも世間の目に触れることとなったのだ。
SDGsの全体図と日本の現状
ここからは、SDGsの全体図を見てみよう。
SDGsでは図のとおり、17のビジョンを掲げている。さらにビジョンは項目ごとに細分化され、合計169のターゲット数値が設定されている。数値化されたノルマがそれぞれ与えられているからこそ、SDGsは”単なる努力目標”に終わらないのだ。
年に1回発表される報告書によると、日本は「4. 質の高い教育をみんなに」 「9. 産業と技術革新の基盤を作ろう」では、すでに2030年までの目標を達成している一方、「5.ジェンダー平等を実現しよう」 および、12~17の主に地球環境を扱う分野で後れを取っている。環境保護の分野はOECD諸国全般がターゲット数値から遠いこともあり、2030年の期限へ向けて国内外で変化が目に付く分野となるだろう。
SDGsは経済成長と環境、人権を両立させる理念
ここまでご覧いただくと、SDGsは大きいスケールで動く慈善事業に見えるかもしれない。しかし、SDGsは社会善のみを目的とした、理想主義のあらわれではない。SDGsは実現することで、企業や国家、ひいては世界の発展を視野に入れているのが大きな特徴だ。
実はSDGsが提唱される5年前の2010年には、すでに環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した企業へ投資する「ESG投資」が注目されていた。従来、投資家の間では、企業が環境や社会に配慮しても時価総額には反映されないとする見方が強かった。しかしESG投資では、環境や社会、ガバナンスに配慮した企業は時価総額も上がり、投資としても意味があると判断されたのだ。
たとえば、A社が今後はリサイクルしたプラスチックのみを原料に使い、衣類を販売すると決めたとしよう。そうすると、消費者はA社とB社で悩んだときに「A社ならエシカルなお買い物ができるから」とA社を選ぶ。こうして環境分野への取り組みは、企業の売上に貢献する。
あるいは同じA社が「過去5年間で従業員への給与遅配がなかった企業にしか、今後は業務を依頼しない」と決めたとしよう。そうすれば発注するA社も労働問題に巻き込まれる心配が減るため、投資家の心証はよくなり、株価はプラスに動く。こうした背景から、2018年までに世界におけるESGの投資額は31兆ドルにまで拡大している。
このように、企業や国家が環境や社会に配慮した施策を取ることは、ただの慈善事業を超えた「持続可能な開発」を可能にする。ESG投資とSDGsの目指すところは、その点で重なる。SDGsの目指す未来は、経済発展と環境保護や人権が両立する世界だ。
日本のSDGsにおける取り組みと展望
日本では政府、省庁主導でSDGsにまつわる法整備等が進んでいる。冒頭の海洋プラスチックごみへの対策として生まれた、レジ袋有料化もその一例だ。さらに自発的な活動を推進するため、外務省の特設サイト『JAPAN SDGs Action Platform』では、SDGs達成のため取り組む企業や自治体を表彰・助成している。
出典:内閣府地方創生推進室 H30年6月15日 SDGs未来都市等の選定について p.2
一方、民間企業においてはSDGsがビジネスよりCSRの一環としてとらえられがちという声もある。GCNJ(Global Compact Net Japan:国連発祥のSDGs推進団体)のレポートによれば、CSR担当職の84%がSDGsを知っている一方、中間管理職では5%にとどまるようだ。
現在の外務省の取り組みはSDGsへの誤解を解く嚆矢(こうし)となるだろう。SDGsの期限となる2030年まで、残り19年。日本もまた、次のステップを踏み出そうとしている。
Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について
「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。