COLUMN

2020年2月25日 コラム

「アフター・プラスチック」需要が激減する石油業界の展望

「石油王」という言葉が大金持ちの比喩表現となったように、石油は財の象徴だった。GDPの多くを石油に依存するUAE(アラブ首長国連邦)では、自国民の医療や教育は無償。留学費用や、海外での手術まで国の補助が出る。土地は国が支給するため、国民は建物代だけを出せばマイホームを得られる。

それほどの豊かさをもたらした石油だが、環境問題との衝突は避けられない。今は発電所のエネルギー源として、また自動車のガソリンやプラスチックとして多岐に活躍する石油も、いつか使われなくなる日が来る。脱プラスチックのムーブメントが活発化する中、石油業界は「アフター・プラスチック(プラスチック後の世界)」を視野に入れ始めている。

 

代替エネルギーによるCO2削減への取り組み

石油業界が「脱・石油」を意識したのは最近のことではない。1973年の第一次石油危機からすでに、発電所の石油依存は問題視されてきた。それから発電所の燃料は石炭、天然ガス、原子力に転換され、2000代半ばには10%を切っている。日本では特にLNG(液化天然ガス)の使用率が急増した。LNGは石油と同じように、動物や植物の死骸が長い時間をかけて分解されることで生まれる。天然ガスは-162℃まで冷やすと600分の1まで体積が減った液体になる性質がある。そのため、大量の天然ガスを冷却すれば輸送可能な点が、エネルギーとしてのメリットだ。

さらに、LNGは燃焼時に石油の7割程度しかCO2を排出しない。使い捨てプラスチックの大量消費がもたらす問題のひとつには、CO2の排出に伴う、地球温暖化への懸念がある。世界的に需要が伸びるLNGだが、中でも日本はLNG需要の1/3を支えている。

このトレンドは日本だけではない。業界大手のロイヤル・ダッチ・シェルは石油事業を「自社で一番小さな部門」にまで規模を縮小させようとしている。ロイヤル・ダッチ・シェルは「スカイシナリオ」という長期プランを提唱し、CO2を削減しつつも企業として成長を遂げる展望を2018年までに描いた。それによると、2040年までには石油消費量が今よりも削減される見通しだ。

 

急ピッチで進む対策でも取り戻せない環境への悪影響

こうして石油を削減し、急ピッチで対策を進める石油業界各社。しかしながら、環境への悪影響を鑑みると「遅すぎる」との批判も免れない。石油から生まれるプラスチックが海洋に漂う量は、2050年に魚の質量を超える見通しだ。世界では毎年4億トン以上のプラスチックが生産され、うち800万トンが捨てられているからである。

業界の努力を加速させるためには、買い手である我々の変化が最も有効だ。自家用車に乗る頻度を減らし、公共交通機関や自転車で移動すること。特に鉄道による移動なら、自家用車の14%しかCO2を排出しないですむ。

 

さらに、使い捨てプラスチックを身の回りから減らすことだ。石油の8%は、プラスチックに使われる。つまり、脱・プラスチックを果たすだけでも、世界は1割弱の石油を節約できるのだ。しかも、日本で作られたプラスチックは、多くが燃やされている。プラスチックを燃やす際にはさらなるCO2が排出されているため、脱・プラスチックには二重のCO2削減効果がある。

ポリプロピレン製の服を避け、麻や綿を選ぶ。エコバッグを持ち歩き、ビニール袋を断る。家にフォークやナイフがあるときは、コンビニでプラスチック製のカトラリーを受け取らない。ペットボトルをやめ、マイボトルを持ち歩く。これらの小さな努力も、積み重なれば年単位で最大数千本ものプラスチック使用量を減らせる。

石油の需要が減れば、業界は危機意識を強め、アフター・プラスチックの動きは加速する。一見、縁遠く見える重工業の世界も、エンドユーザーである我々の消費によって変化をうながされる。エネルギー資源が枯渇する前に、そして海洋生物が激減する前に、個人が起こせる変化は小さくない。

Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について

「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。

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