COLUMN

2020年3月24日 コラム

ごみ山と化すエベレスト プラスチックごみ禁止の背景

エベレスト――。言わずと知れた世界で最も高い山がいま、プラスチック汚染の危機に瀕している。登山者を除いて訪れるものがほとんどいないはずのエベレストに、いま何が起きているのかを追った。

 

登山者が年々増加するエベレストとプラスチックごみ問題

エベレストに初めて人類が登頂を果たしたのは、1953年。イギリス隊のエドモンド・ヒラリーと、シェルパ(現地の少数民族。荷物運搬やルート確保を通じてエベレスト登頂を支援する)の快挙だった。その後、次々と登頂者が増え、2019年春には885人が登頂した。エベレストの登頂シーズンは春のため、多くの登山者が春に集中する。最も空気が薄い「死のゾーン」と呼ばれる危険地帯ですら、登頂ルートに数時間の渋滞まで起きているという。

 

それに伴い、登山者のレベルが以前より下がったとの指摘がある。開拓当時の登山者は、自分で酸素ボンベや食料を運んでいた。だが、今ではシェルパ頼りで、自分の体を山頂へ持っていくのがやっとの登山者も多い。そこでも生まれるのが、大量のゴミだ。

エベレストに限らず、世界中の海や山にごみは持ち込まれている。中でもプラスチックごみは深刻な問題だ。プラスチックごみは土に還るまで400年以上かかるといわれる。また、徐々に土へ還るとされる生分解性プラスチックも温度や湿度の制約があるものが多い。条件を満たさない山や海では、半永久的にプラスチックが残る恐れがある。

エベレストでは、土に還らないプラスチックの鮮やかな装備を目印に山を登っていく。登山中に亡くなった死体とともに、装備が残り続けるからだ。彩りあるプラスチックの装備になぞらえて、標高8,000m付近のエリアは「虹の谷」とも呼ばれている。

 

ごみの回収を義務付けるも、命を優先する登山者たち

もちろん、この状況を喜ぶ人は少ない。特にエベレストの「入口」となっている、ネパール・チベット(中国)政府はエベレストのごみ問題に頭を痛めている

ネパール政府は2013年に登山隊へ4,000ドル(約44万円)のデポジット制を導入。登山前に前金として支払い、8kg以上のごみを持ち帰るとキャッシュバックされる仕組みだ。チベットでは8kgのごみを持ち帰らない場合、1kg当たり100ドル(約1万円)の罰金を科している。

 

しかし、この義務を守る登山者は少ない。装備が発達し、シェルパが支援してくれてもなお、エベレストは命がけで登る山だからだ。昨年春にエベレストを訪れた登山客885人のうち、11名が命を落とした。登山者の中には「助けを求める人を見捨てて登頂した」エピソードも出てくる。命を掛けた登山において、サステナビリティは軽視される。そしてついに2018年、プラスチックの持ち込み自体がネパール政府により禁止された。

この現状を踏まえ、生還者は入場規制の強化を訴えている。もともと、エべレスト登頂には許可証が必要だ。本来であれば、この許可証が参加者のスキルを精査し、ごみを持ち帰れないほどの登山者を足切りできるはずだった。

しかし、政府は許可証の発行で潤沢な資金を得られるため許可証を乱発しているとの批判がある。ベテラン登山家は「6,000m級の山を登っていない登山家へ許可証を発行するべきではない」と主張する。

 

エベレストのごみ山は、普段の私たちの縮図でもある

エベレストに溢れるプラスチックごみは、世界の縮図でもある。私たちも普段から、自分が持ち運べないほどのごみを持ち歩いていないだろうか。エベレストでプラスチックが規制されたのと同じように、各国政府は「私たちの、普段の暮らし」でプラスチックへの規制を強化している。

だが、規制は常に現状の後追いだ。エベレストだけでなく、地球上がプラスチックごみに埋もれてしまう前に、不要なプラスチックを減らしていこう。私たちが取れる行動は、命がけの登山者よりも手軽なはずだ。

Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について

「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。

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