COLUMN

2022年2月18日 コラム

漁業が向き合う海洋プラスチック汚染

「ゴーストフィッシング」とは?

海洋プラスチックごみ問題を語る上で無視できない深刻な要因の1つが「ゴーストネット」や「ゴーストギア」と呼ばれる海に流出した魚網などの漁具なのだが、ネーミングの通り幽霊のように海の中を漂い続け、人の手を離れた後もひとりでに魚を捕獲し続けてしまうことを「ゴーストフィッシング」と呼ぶ。

海洋生物、生態系への影響

海中や海周辺の陸域に何らかの理由で流出した漁具によってウミガメやアザラシなどの希少生物が絡まり死亡してしまったり、海底に沈んだ漁具がサンゴの着床礁に絡み付いて破壊したりと海洋生物を次々と苦しめているという。そもそも魚などを必要な分だけ捕獲するために作られたはずのプラスチック漁具が、ゴーストフィッシングによって海洋生物を捕獲してしまう海の脅威となっている。

観光価値や漁業資源の減少  人への危険も

当然ながら流出した漁具を含む海洋プラスチックごみがこのまま増え続ければ、海の美しい景観は失われ、観光資源の価値減少による経済損失が生じる。また、ゴーストフィッシングによって経済的価値のある魚などが捕獲され続けると、漁業資源の損失もどんどん大きくなり漁業全体の損失につながる。さらに、流出した漁具は船にとっては障害物ともなり、渡航の遅延のみならず人命にかかわる事故にもなりかねない。

丈夫なプラスチック漁具による海洋汚染

丈夫で軽量、コストも安く、漁業者にとってプラスチック製の漁具は大変便利で一般的である。しかしその丈夫さゆえに海への流出後も分解されることはなく、およそ600年もの間海を漂い、紫外線や海流によって小さなプラスチック片になってやがて海底に沈むと言われている。マイクロプラスチックの大きさになると回収することは難しく、魚などの海洋生物が誤飲して死亡してしまう事例や、プラスチックに付着した様々な有害物質を吸収する恐れもあり、海洋プラスチックごみはどんな形状や大きさであったとしても海そのものや海洋生物に与える影響は甚大である。

漁具流出の実態と問題解決に向けて

オランダのNPO団体「オーシャン・クリーンアップ」の調査によると、世界最大の海ごみ集積地“太平洋ごみベルト”に浮遊する海ごみのうち、46%が漁網であった。( 参考:NATIONAL GEOGRAPHIC https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/032600132/)

日本でも環境省が行った国内10地点の海の漂着ごみ調査(環境省:プラスチックを取り巻く国内外の状況〈第3回資料集〉)によると、重量比では漁網・ロープが全体の41.8%と圧倒的な数字となった。

個人が消費するプラスチックごみが議論される事が多い中で、この数字は意外な結果であり、深刻である事がわかる。この問題解決に向けてまずは流出防止の観点から使用済み漁具の回収システムの構築や、使用後にリサイクルまたはアップサイクルしやすいよう素材別に分解・分別でき、また流出しにくいような設計デザインの開発などがあげられる。流出を未然に防ぐ対策がベストだが、しかし意図的に投棄された漁具も漁場によっては多く存在し、また悪天候などのやむを得ない理由で流出は避けられない場合もある。その為、軽減措置として生分解性プラスチックによる漁具の開発研究もすすめられている。流出してしまった後の海洋中の漁具を見つけて回収するシステムも必要であるし、オフシーズンの漁師たちによる海浜清掃活動によって陸域の漁具の回収を徹底する組合も多く見られる。

しかしながら、コスト面などの問題で実用化にはまだ課題が多い。漁業者や水産会社をはじめ様々な機関がガイドラインを作り声をあげる一方で、漁具流出における海洋汚染の国際的な取り締まりの強化や協定はなく、十分な議論がなされていないのが現状だ。

今、わたしたちができること

先述の環境省による国内10地点の海の漂着ごみ調査(環境省:プラスチックを取り巻く国内外の状況〈第3回資料集〉)で重量比では漁網が大きな割合を占めたが、個数比で見ると飲料用ペットボトルだけで38.5%、使い捨てプラスチック全体では約50%にのぼり、個数比においては「使い捨てプラスチックごみが圧倒的な数字を見せた。重く、表面積も大きい漁網は少しの流出でも海へ与える負担は大きい。そこへさらに、1つ1つの重量は大きくなくても私たちが日常的に出す使い捨てプラスチックごみの総量はあまりに多いため、リサイクルされずごみとして流出したプラスチックの生活ごみがそこに大量に加われば、言うまでもなく私たちも海の汚染を加速させていることになる。

海に囲まれた島国、日本にとって漁業は大切な産業だ。漁業が抱える問題と海洋プラスチック汚染問題との関係性を私たちが身近な生活の中で繋げて意識することは難しいかもしれないが、食卓にのぼった魚やお寿司を見て「海の景色」を想像してみてほしい。流出した漁具だけが悪者なのではない。使い捨てプラスチックに慣れすぎてしまった自分たちの生活様式もまた、深刻に進み続ける海洋プラスチック汚染に加担している事を理解し、今私たちにできることは何か考えたい。個人の単位で、さらに企業・団体の単位、そして社会全体それぞれにできることを即実行していく段階にある。

〈参考〉

WWF JAPAN 『深刻な海洋プラスチック問題の原因「ゴーストギア」を無くそう!』https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4452.html

Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について

「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。

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