COLUMN
コラム
「プラスチック餓死」の衝撃 なぜ海洋プラスチックはウミガメやクジラを殺すのか
「プラスチックごみ問題」という単語で、生き死にを連想する方は少ないはずだ。だが、海洋プラスチックごみは、むごい形での死を動物へもたらしている。2019年、フィリピンの海岸でクジラの死骸が見つかった。クジラの胃からは40kgに及ぶビニール袋が見つかった。
クジラの死因は、餓死と推定された。見つかったのはアカボウクジラのオスだ。アカボウクジラは歯を持つクジラで、魚や頭足類(イカ、タコの仲間)を主食とする。ところが、クジラはビニール袋をエサとなるイカやタコと誤認してしまう。確かに、ビニール袋がふわふわと海中をただよう姿は、イカやタコの動きを連想させる。
しかし、ビニール袋は食べても消化されず、胃にとどまる。その結果、胃の中でビニール袋の体積が増え、アカボウクジラは「満腹」だと誤認するようになってしまった。しかし実際に栄養は接種できないことから、栄養失調となり餓死してしまったとみられる。CNNによると見つかったアカボウクジラはやせ衰え、吐血した痕もみられたという。
しかも、これは新しいニュースではない。2018年にも同様のビニール袋誤食による餓死が報告された。生きているうちに救助隊が発見したものの、すでにクジラの胃はビニール袋でいっぱいになっており、餌を与えても食べられない状態だったという。
海洋生物を死に至らしめるビニール袋
クジラ以外も、同様の被害を負う。タイの海では、ウミガメやイルカも毎年300頭以上が同様の「プラスチック餓死」の被害に遭っている。
2018年には英国のスカイ島で、死んだタテゴトアザラシの子が見つかった。死体はスコットランド海洋動物座礁調査研究所(SMASS)へ運ばれ、解剖後にプラスチックフィルムが見つかり、生後1歳以下で餓死したと判明。タテゴトアザラシも魚や甲殻類を主食にすることから、クジラと同様にプラスチックを誤食するリスクがある。
さらに、プラスチックが胃から腸へつながる管をふさいでしまうことがある。そうすると食事をとっても消化されないため、衰弱がさらに早まる。さらに、胃でプラスチックが癒着することで潰瘍を引き起こし、アザラシの子は死ぬまでに痛みを味わったと推測される。
生分解性のプラスチックも海洋生物には危険
近年、プラスチック海洋ごみ問題がクローズアップされた。各国ではプラスチックごみを削減するため、レジ袋の課税や禁止などの措置に動いている。一方で、「今すぐにプラスチックを全廃」とはいかない現実と折り合いをつけるため生分解性プラスチック(土に還るプラスチック)への切り替えを選ぶ企業も多い。
「プラスチック」の総称で一般的に使われるのは、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニールやポリプロピレンだ。一方、ポリビニルアルコールなどのプラスチックは石油由来でありながら、土に還りやすい「生分解性プラスチック」となる。
だが、生分解性プラスチックは水に漬けたら即座に分解するような物質ではない。それぞれの成分にもよるが、中には「温度55℃以上、湿度80%以上の環境で分解される」などの環境条件がある。
特に酸素が少ない水中で分解される生分解性プラスチックは限られており、海洋生物の命を救うには不十分だ。実際に、さきほど挙げたクジラの胃には、生分解性プラスチックのビニール袋も詰まっていたという。
消費者が「プラスチック以外」を探すべき
プラスチックを今すぐに全廃するのは現実的ではない。しかし、「生分解性プラスチックだから安心」といった誤解は、今後も海洋生物を餓死させ続けるだろう。私たちが何の気なしに手に取るビニール袋が、クジラやアザラシを死に至らしめるのだ。
もし、この記事でアザラシの子の写真を見て何か感ずるところがあるならば、最初にできる行動は「プラスチック以外」の容器を探すことだ。国連の資料によると、プラスチックの約4割は梱包、包装容器に使われている。麻のエコバッグを選んだり、「鞄に入るので袋は結構です」と一言伝えたりすることから、海洋生物の命は救われる。最後にはささやかな習慣の変化が、地球環境を変えるだろう。
Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について
「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。