COLUMN
コラム
年間855億個も使われるプラスチック 世界中で見逃された 「小さな敵」の正体
お弁当についてくるマヨネーズやソースのパッケージに、お菓子の個包装。これらの多くは、プラスチックでできている。その数、実に855憶個にも上るプラスチック製の「小さな袋」は脱プラスチックが必要な世界において「大きな敵」だ。
法律の規制から漏れたプラスチックの小袋
2019年、ネスレ日本のキットカットが紙の包装に変わりセンセーションを呼んだ。裏を返せば、それほどまでにお菓子業界でプラスチック製の個包装が浸透していたことになる。世界のプラスチックごみの半分はペットボトルや包装容器だ。そのためプラスチックごみ対策には、プラスチック製容器の削減が最重要項目のひとつだ。
そうして、各国でプラスチック容器に関する法律が制定された。各国で削減対象となっているのが、ビニール袋だ。現在世界41の国や地域でビニール袋は有料化または禁止されており、日本もこの流れに従って有料化する予定となっている。さらに環境に関心の高い先進国ではストロー、フォークやナイフなどのカトラリーなども禁止されている。
「この流れから取り残されているのがプラスチックでできた小袋」だと、環境保全団体「プラスチック・プラネット」の創業者、サイアン・スザーランドは語る。というのも、プラスチックの小袋はEUをはじめとする先進国において、規制の対象外となっているからだ。
発展途上国に押し寄せる「プラスチックの袋の山」
プラスチックの小袋は、単にお菓子やケチャップの包装に使われるだけではない。フィリピンなど貧富の差が激しい国では、シャンプーや歯磨き粉などの生活必需品を通常サイズで買う金銭的余裕のない層が多く、サシェ(小袋)単位で購入する。そのため、捨てられたプラスチックの小袋が川を流れて砂浜を覆いつくし、深刻な環境問題になっている。
この「捨てやすさ」が、プラスチックの小袋が抱える課題の一つでもある。大きなビニール袋や発泡スチロールと比べ、個包装の包みはポイ捨てされやすい。そして小ささゆえに、野生生物が誤食しやすい。
2019年には、タイの公園でシカの遺体が見つかった。死因を調査したところ、胃から7kgものプラスチック容器が見つかり、中にはインスタントコーヒーの小袋も含まれていた。動物がプラスチックを食べると胃に溜まってしまい、満腹だと脳が誤解して食欲減退を引き起こす。しかし実際の栄養は取れていないため、餓死してしまうのだ。
人から動物まで、害を引き起こすプラスチックの個包装は「小さな敵」として猛威を振るっている。そして多くの企業は法律の抜け穴を利用し、安価で便利なプラスチックの個包装に頼っているのが現状だ。
個人の努力で855億個のプラスチックは減らせる
日本では現状を鑑みて、対策をとった自治体もある。食べ歩きが多く、ポイ捨てに苦しむ神奈川県・鎌倉市では観光客へごみをまとめて持ち帰れる紙袋を配布した。しかし、これは地元の商店街が有志で行っている活動で、年間2,000万人が訪れる同市に対し、配布できた袋は5,000枚ほど。需要には追い付かない状況だ。
これらプラスチックの個包装は、ほとんどが個人の努力で減らせるのがポイントである。お菓子は個包装がない商品を選び、プラスチックの消費量を減らせる。ホテルのアメニティも不要なら使わず、自分で何度も使える容器に入れたシャンプーやボディーソープを使えばよい。ケチャップやソースの小袋も、自宅にあるなら断ってよい。実はファストフード店で使われているマスタードソースやバーベキューソースなども、家にある調味料で簡単に作れるものだ。また、家でボトル買いしておけば、個包装は不要になる。
私たちが気軽に受け取る小袋が、どこかでウミガメやシカを殺し、海を埋め尽くしている。その事実を知った以上、罪悪感を抱きながらプラスチックの個包装入り商品を買うよりも、楽しくエココンシャスな商品を選んではいかがだろうか。
Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について
「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。