COLUMN

2020年5月16日 コラム

「石油や天然ガス業界の広告お断り」英ガーディアン誌の決断と、 プラスチック業界の暗雲

2020年1月、ある新聞社に「化石燃料業界の広告は、掲載ご遠慮いただきます」という、一風変わった見出しが登場した。”といっても、一風変わった”と感じるのは、日本に住む人だけかもしれない。石油をはじめとする化石燃料を用いる業界はいま、かつてないほどの変化に直面しているからだ。

 

化石燃料業界からの広告を停止した英ガーディアン紙

この発表をしたのは、英ガーディアン紙。同紙は国内4位の大手新聞媒体だ。リベラル派に広く支持され、環境問題、紛争や貧困問題の特集も多い。

読者に環境へ関心の高い層が多いことから、「なぜ環境問題へ切り込むはずのガーディアン紙が、同じ紙面に石油や天然ガス会社の広告を載せ、資金を得るのか」という矛盾は読者も抱いたことだろう。今回の決定は、その矛盾を解消するものとなる。

 

現在、ガーディアン紙にアクセスすると全記事の最下部にこんな表記が見られる。

 

「気候変動に対応し、国際的なメディアとして世界で初めて、化石燃料業界の広告をご遠慮いただく運びとなりました。これにより、化石燃料から得られた資金の提供を禁ずる措置となります。

(中略)ガーディアン紙はジャーナリズムを開放するため、記事の有料課金も停止します。政治やスポンサー企業の影響を受けない環境問題の事実を知ることは、命に関わるからです。(中略)私たちは気候変動の危機へ立ち向かうには社会が根底から変わらねばならないと信じています」

 

ガーディアン紙の取った行動は称賛された。というのも近年、環境問題に関心の高い先進国ではエコに見せかけた商品を売る「グリーンウォッシュ」が批判されていたからだ。

 

先進国では気候変動問題が、現実の業務に大きな影響を持つ

何の根拠もなく「省エネ」と記載したり、すでに法律で禁止されている化学薬品を使っていないとパッケージに表記したり、無意味に緑色のパッケージを採用するなどのグリーンウォッシュは、発覚してはしばしば批判されてきた。うがった見方をすれば、ガーディアン紙のアクションは、グリーンウォッシュの批判を受ける前に取った「防御策」ともいえるのだ。

米JPモルガン・チェースは、化石燃料業界への融資を一部取りやめた。石油業界出身で、気候変動問題に懐疑的だったリー・レイモンド取締役に至っては、外部から退任するよう圧力がかかったという。それほどまでに先進国では気候変動問題が現実のビジネスに影響を及ぼしているのだ。

 

化石燃料業界への反発はプラスチック業界にも影響

プラスチックを製造する企業も、同様のリスクを抱えている。なぜなら、プラスチックは主に化石燃料から作られるからだ。現在、プラスチック業界そのものへ広告を禁ずる媒体や法律はない。衣類から包装容器、建造物にまで使われているプラスチックを広告から締め出せば、掲載できるものがほとんどなくなってしまうからだろう。

だが、今後も脱プラスチック化が進めば、プラスチック業界の広告へもノーが突き付けられる可能性は出てくる。実際、プラスチックの生産量は年々増加していたが、従来の3分の1までペースダウンするとの分析もある。一部の石油企業は自社の石油部門を「全部門の中で最小」まで縮小させる見通しを立てた。

決してこれは、遠い世界の話ではない。日本でプラスチックそのもの、そしてプラスチック加工製品を製造している企業は1万社にものぼる。今後、脱プラスチック化が進めば化石燃料業界・プラスチック業界の日本企業が海外で広告を掲載できなくなるかもしれない。

さらに、世界の「常識」が変われば、日本の広告業界にも影響は及ぶ。日本はG20をきっかけに「2030年までに使い捨てプラスチックを25%削減する」など意欲的な目標を掲げた。たばこ、アルコールの広告が規制されているように、今後は化石燃料業界の広告も規制される可能性がある。自分の勤め先が影響を受けるのは、もうすぐかもしれない。

Plastic Fighters Japan(プラスチック・ファイターズ・ジャパン)について

「プラスチック・ファイターズ」は、世界45か国のソーダストリーム幹部職が集結し始動させた使い捨てプラスチック廃止活動。
ホンジュラスのロアタン島で行われたビーチの清掃活動では2000人ものボランティアが集まるなど、大規模な運動へと発展している。

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